(3) 六甲山の植物

明細図の裏面には当時の六甲山の案内が記されています。

その2は「植物」です。祖父の真骨頂です。

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原文は縦書きですが、やむなく横書きにしています。
なお、意味の変わらない範囲で、字体を変えています。

六甲山の植物

六甲山は全山が明るく、展望の良さを以つて人々に親しまれる半面、植物の繁茂が少なく森林美や、山自体の深さと言うか深山幽谷と言う美しさに乏しい。
僅かに摩耶山天上寺の附近、再度山の一部に夫らしい美しさか求められるに過ぎない。
これは土質が花崗岩の風化した砂礫地で肥沃でないのと、南に面して海が近く従つて空気中に塩分が多く、加うるに絶えず強風に見舞われる等、気象的な悪条件によるものと思われる。
六甲山特有の禿山や奇岩怪石の突兀たる美しさも格別であるが、これが豪雨の度に山麓の都邑を脅す水害の一大原因であつた。
更に戦時中、戦後の混乱期に於ける心なき乱伐は、益々禿山を増し、鳥類の棲息も困難にし、一時は小鳥の姿も稀になつていたが、近年に至り県市に於ても治山、緑化に本腰を入れ、一方民間に於ても「六甲を緑にする会」等が先達となつて、全山の緑化が強力に進められている。
その結果近頃では見違える様に美しくなり、ウグイス、ホトトギスなども帰つて来て、至る処で可愛い声を聞かせて呉れる。
六甲山に遊ばれる方々も六甲を愛する事は、六甲を綠にする事である言うお心でご協力下さる様お願いする次第である。

六甲山の植物について二三拾つて見ても、春から夏にかけての新綠、翠藍の六甲の美しさは言うまでもないが、特に目立つのは俗に六甲笹と呼ばれるミヤコザサであろう。
全山至る所に繁茂し、晩秋になると、両辺が真白に褪色して、白と深綠の鮮かな対象美は見る人の目を喜ばせる。
室井氏の説によると、六甲山の山崩れを防いでいる最も大きな力は、このミヤコザサだと言われている。
新綠についで五月ともならば、全山至る処ツツジで覆われる。
六甲山のツツジは十数種類にも及ぶが、主なものを挙げて見ると、ゴヨウツツジ、ウスギヨウラク、ベニドウダン、バイカツツジ、シロバナウンゼンツツジ、ミヤコツツジ、モチツツジ、ヤマツツジ等がある。
特にヤマツツジは至る所に大群落をなして、紅の娟を競い実に見事である。
同じ類に属するアセビの純正林のあるのも、六甲山の特異性と言えよう。

六月中旬には六甲笹の葉蔭れにササユリが楚々とした姿を見せて芳香を放ち、遊歩道の傍にはイワカガミがひつそりと微笑みかける。
更に半月ほど遅れて、ウチヨウランが乙女のような可憐な姿を見せる。
日当たりの良い沼沢地には珍らしい食虫植物モウセンゴケが真白な小花を開いて小虫の飛来を待つている。
夏になるとシモツケが、シヨウマ類が、秋には十種に近いハギ類が、更に晩秋ともならば、ハゼ、ヌルデ、ヤマウルシ、アオヤマウルシが全山を紅葉に彩り、ウメモドキ、マユミ、コマユミ、ガマズミ、ウラジロノキ等が、真紅の実をみのらせて、綠叢中に紅を点じ、全く枚挙に暇なき程変化に富んだ山である。

(ゴルフ場)

特有植物と言われるものをあげてみよう。

六甲山で発見された植物としてはロツコウナンバンギセル、アオヤマウルシ、ハナグリ、マヤクサイチゴ、ロツコウキバナノコツクバネウツギ、アリマウマノスズクサ、シダレイヌツゲ、アリマコスズ、フタタビコスズ、キスジスズダケ、ホソバナンブスズダケ、アリマラン、ロツコウヤナギ等がある。
之等の植物も心なき人々に根こそぎ採集されて、段々姿を消しつつあるのは真になげかわしい。
其一例に六甲ニンジンは殆ど絶えて了い、ウチヨウラン等も時偶見かけられるに過ぎなくなつた。
一方園芸品種とは言え、六甲山ホテルを中心に紫陽花の大群落がつくられて、新名所の観を呈し、六甲を綠にする会の代表者清水雅氏が、私財を寄附されて、小林一三翁を記念して一大椿林がつくられ、更に新名所ができようとしている。
神戸市綠地課に於ては年々植樹を続け、阪神電鉄では裏六甲の所有地に、営々として植林を行つている。
六甲山が禿山の汚名を返上して文字通り翠恋の六甲となる日もさほど遠い事ではあるまい。

(観光牧場)
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